夏にひらく、コスタリカの一杯

2025/8/26

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前回はコーヒーの起源地であるエチオピアを取り上げました。
今回は視点を中米に移し、スペシャルティコーヒーにおける確固たる地位を築いている "コスタリカ"について掘り下げます。

コスタリカとスペシャルティコーヒー
コスタリカは国土の約4分の1が自然保護区に指定されるほど自然環境を重視しており、その豊かな土壌と標高差が高品質なコーヒー栽培を支えています。

コスタリカは国土の約4分の1が自然保護区に指定されるほど自然環境を重視しており、その豊かな土壌と標高差が高品質なコーヒー栽培を支えています。コーヒー栽培は19世紀初頭に始まり、現在では国の重要な輸出産業のひとつ。
とくに注目すべきは、2000年代以降の 「マイクロミル革命」 です。
それまで多くの農園は大規模精製所にチェリーを持ち込んでいましたが、小規模農園が自前で精製設備(マイクロミル)を持つようになったことで、農園単位での個性がダイレクトに市場へ届くようになりました。

その結果、コスタリカはスペシャルティ市場において「小規模・高品質・多様性」を象徴する存在となり、世界中のロースターから熱い注目を集めています。

地域ごとの特徴
コスタリカには代表的な8つのコーヒー生産エリアがあり、それぞれに風土の個性が表れています。

  • タラス(Tarrazu):標高が高く、シトラスや花のような明るい酸。世界的にも評価の高い産地。
  • セントラルバレー(Central Valley):火山性土壌、バランスに優れた味わい。
  • ウェストバレー(West Valley):マイクロミル革命の中心地。複雑なフレーバー、多様な精製方法。
  • グアナカステ(Guanacaste):乾燥した気候、ナッティで軽やか。
  • トレスリオス、ブルンカ、オロシ なども近年評価が上昇しています。

コスタリカの魅力は「どこの農園の、どの精製か」で味わいが劇的に変化することにあります。

ハニー精製という革新
コスタリカといえば、世界に広がった ハニー精製(Honey Process) の先駆者としても知られます。
ハニー精製は、コーヒーチェリーの果肉を除去する際に、甘みのある粘液質(ミューシレージ)をどの程度残すかによって名称が変わります。

  • ホワイトハニー:ミューシレージを最小限に残す。クリーンで軽やか。
  • イエローハニー:中程度に残す。甘みと酸のバランス。
  • レッドハニー:多めに残す。熟した果実感。
  • ブラックハニー:ほぼすべて残す。濃厚でワインのような深み。

この精製方法により、ウォッシュドの透明感とナチュラルの果実感の中間に位置する、ユニークで表情豊かなコーヒーが生まれます。

今回の豆:ラ・リア ビエサン ホワイトハニー
楚々で今季ご用意しているのは、ラ・リア マイクロミルの「ビエサン農地」ホワイトハニー、カトゥアイ種。
ラ・リアは、マイクロミル革命の中心的存在として知られる生産者一家「チャコンファミリー」による精製所。徹底した品質管理と実験的な精製技術で、コスタリカのスペシャルティを牽引してきました。
「ビエサン ホワイトハニー」は、ミューシレージを薄く残して乾燥させることで、クリーンでありながらフローラルな香りと、柑橘のような酸、そしてほのかな蜂蜜を思わせる甘みが特徴です。
カトゥアイという品種自体はコスタリカでは広く栽培されていますが、ラ・リアの管理と精製によって、他にはない透明感と奥行きを備えています。

この季節におすすめの飲み方
ホットで飲むと、華やかで上品なフレーバーがゆっくりと広がります。
一方でこの季節は、アイスで楽しむと驚くほど美味しい。
冷却によって酸がシャープに際立ち、フローラルさと蜂蜜のような余韻がより鮮明に感じられます。
アイスドリップや急冷アイスコーヒーにすると、まるでワインのように繊細なフレーバーが立ち上がり、夏の日の特別な一杯に変わります。

暮らしの中にある一杯として
コスタリカのコーヒーを選ぶことは、単に「美味しいから」だけではありません。
その一杯には、生産者が挑戦を重ねてきた歴史や、自然と共生しながら作られる哲学が宿っています。
楚々という空間で提供する一杯が、日常の中でふと立ち止まる時間となり、暮らしに小さな特別を添えてくれることを願っています。

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