2025/11/6

楚々の秋メニュー、第二弾。
今回は、逗子茶寮・凛堂さんのほうじ茶を使った、
「ほうじ茶フルーツブリュー」をご紹介します。
ほうじ茶と果実をゆっくり煮出してつくる自家製シロップを加えた、
やさしく香る一杯。
渋みがなくすっきりとした味わいの中に、
果実の自然な甘さがそっと重なります。
温かくしても冷たくしても美味しく、
秋の移ろいを静かに感じられるドリンクです。

同じ「ほうじ茶」という言葉でも、
凛堂さんの茶葉を使うとまったく違う表情を見せます。
香りの立ち上がり、湯に溶け出す色、口に残る余韻。
それぞれが繊細で、凛とした輪郭を持っています。
焙煎の深さを少し変えるだけで香りの層が変わる。
そんな「微差」を丁寧に見つめているのが、
逗子にある茶寮リンドウという場所です。

神奈川県逗子市、亀岡八幡宮の向かい。
「逗子茶寮 凛堂 -RINDŌ-」という屋号を掲げ、
家紋には“雪月輪に利休竜胆”が描かれています。
お店は、木の香りが残る静かな空間。
一枚杉のカウンターに腰かけると、
湯の沸く音が遠くで聞こえてくる。
その音を合図に、丁寧に抽出された日本茶が差し出されます。
凛堂さんのお茶は、全国から厳選された茶葉を使い、
一滴一滴に“旨味の時間”が込められています。
添えられる上生菓子は、
その季節ごとに変わる景色を映したもの。
茶と菓子の呼吸がぴたりと合った瞬間、
時間がふと止まるような感覚が訪れます。

凛堂さんのサイトには、こんな言葉が綴られています。
「いかなる時代であっても私たちの傍らにあり、
先人が紡いできた歴史とともに歩んできた
“歴史の雫”ともいえる茶や酒。」
その一文を読んだとき、
お茶やお酒を“文化”として捉える視点の深さに心を打たれました。
単なる味や香りを超えた“記憶のような温度”があります。
それは、長い時間の中で育まれてきた人と土地の関係、
そして「今、ここでお茶を淹れる」という
一期一会の精神が宿っているから。
その哲学があるからこそ、
楚々で使わせていただく一杯にも、
物語の余韻が生まれるのだと思います。

楚々では、金・土の朝に行っている「朝ごはん」の時間でも、
凛堂さんのオリジナル焙煎のほうじ茶を提供しています。
朝の光が差し込む時間、
カウンターの上に湯気がゆらぎ、
お茶の香りがゆっくりと広がっていく。
飲みものとしての“味”だけでなく、
その場の空気をまるごと整えてくれるような存在。
食事とともに流れる時間に、
小さな呼吸をつくってくれます。
今回の「ほうじ茶フルーツブリュー」は、
凛堂さんの茶葉をベースに、
オレンジ、林檎、スパイスなどの果実を煮出して作った
自家製のフルーツシロップを重ねています。
最初の一口はすっきりとしたお茶の香り、
そのあとにほのかに果実の甘みと酸が立ち上がる。
お茶の“静”と果実の“動”が、カップの中で出会うような味わい。
香ばしい茶葉の香りが果実を包み込み、
ひと口ごとに温度と香りの層が変わっていくのが分かります。

茶寮に伺ったり、凛堂さんにお会いすると、
「お茶を作っている」というだけではなく、
香りの記憶を紡いでいる人だと感じることがあります。
茶葉の焙煎という作業を通して、
火と時間と香りのあいだにある“見えない美”を探しているよう。
その姿勢が、お茶を超えた一つの文化としての「凛堂」を形づくっているのだと思います。
茶という古くからあるものに、
新しい呼吸を与えている。
それは、楚々が目指す「生活の中の自然な再生」とも響き合います。

この季節の光は、
朝と夕方でまったく違う表情を見せます。
昼のやわらかさと、夜の凛とした静けさ。
楚々の「ほうじ茶フルーツブリュー」は、
そんな秋の時間のグラデーションを映した一杯です。
穏やかでありながら、深い。
どこか懐かしくて、少し新しい。

そしてその背景には、
茶寮・凛堂さんの精神が静かに息づいています。
